【ゲームレビュー36】シンフォニック=レイン

レビュー一覧

ジャンル ビジュアルノベル+音ゲー
メーカー/ブランド 工画堂スタジオ
発売年 2004(リマスター版:2017)
ハード PC(Steam,DLSite,パッケージ etc...),Switch
お気に入り度(0~10) 10+
プレイ状況 全エンディング回収/Steam版

 

 

「今まで遊んだ作品の中で、最も好きなノベルゲームは何?」と聞かれたら、絶対本作を挙げます。最後は一日中ぶっ通しでプレイして、その後1週間くらい鬱で再起不能になりました。

本当に大好きな作品で、Steam版をクリアした後にリマスター前のパッケージ版も欲しくなり、必死に探して手に入れました。ある程度内容を忘れたら再プレイしようと思っていますが、あまりに記憶に深く刻まれてしまっているので、全然再プレイの機会が巡ってきません。

最近新装パッケージ版が出たのですが、こちらも欲しくなっています……

サントラはプレミアが付き過ぎていて買えていません。再販してほしい…

 

ネタバレ厳禁系の作品ですので、検索の際は充分注意してください。一度しかないゲーム体験を壊さないためにも、是非できるだけ情報を入れずにプレイしてほしいです。私もネタバレには極力注意して書いていきたいと思います。(そのため、核心的なことについては書きません)

 

シンフォニック=レイン とは?

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工画堂スタジオが2004年に発売した、全年齢向けのアドベンチャーゲームです。工画堂スタジオが手掛ける「ミュージックアクションシリーズ」の3作目で、一般的なノベルゲームに加え、音ゲーパートがあるのが特徴です。

シリーズ作品とは言え、作品間の関連する要素は、シナリオ面においては全くないと言っていいレベルなので、前作までを遊ばなくても全く問題ないです。

 

元々windows向けのパッケージのみでしたが、2017,2018年に絵の描き直し(+新規opの制作)が行われたHD版がSteam,Switchで販売されています。
その後、旧バージョンとHD版、さらには一部のパッケージ版に付属していたサイドストーリーが全部入りの新普及版が2021年に発売されました。

今から遊ぶならば、新普及版がおすすめです。値段だけで言えばセール時にSteam版を購入するのが安いですが、本作の作風上、プレイ後にサイドストーリーを読みたくなる確率が高いと思われるので新普及版がおすすめです。

 

雨が止むことなく降り続ける街ピオーヴァは、音楽家を夢見る若者達が集う、音楽の街でもありました。 あと数ヶ月で卒業を迎える主人公「クリス=ヴェルティン」はフォルテール科の卒業課題として、歌唱担当のパートナーと共にオリジナル曲を合奏しなければなりません。しかしクリスは未だにそのパートナーさえ決めようともせず、ただやる気のない毎日を送り続けていました。

週に一度届く恋人からの手紙と、この街に引っ越して来たときに出会った部屋の居候、身の丈14センチほどの小さな音の妖精フォーニが、彼の世界のすべてでした。  

 

雨、いつまでも、止むことなく降り続ける雨。  

 

雨音が奏でるメトロノームにのせて、魔導奏器フォルテールの音色を響かせましょう。

クリスの奏でる音色と、音の妖精フォーニの歌声が重なり、響き渡る時、何かが起こるのでしょうか?

……さぁ、妖精の歌を奏でましょう。

 

 

―― Steam版ストアページより引用

 

概要・ゲームシステム

本作は構成としては一般的な恋愛アドベンチャーゲームです。ヒロインとなるキャラクターが数人おり、序盤に誰と関わったかによって後半のルートが分岐します。ルート数は、3+α と多い部類ではありませんが、どれも強烈な印象を残す高い完成度となっています。

本作の物語は音楽学校に通う主人公が、卒業課題演奏を一緒に行うパートナーを見つけ、一緒に本番に向けて練習していくことを軸に据えて進行していきます。

 
一般的なノベルゲームに無い独特な要素として、「ミュージックアクション」パートがあります。物語上で主人公が楽器を演奏する場面になるとこのパートが始まります。各ヒロイン1曲ずつ曲を持っており、彼女たちの歌に伴奏を付けることになります。

内容としては所謂音ゲーです。右側から流れてくるノーツが判定ラインに達したときに、キーボードの対応するキーを叩くという比較的シンプルな仕様で、しっかりとキー音もあります。ノーツをタイミングよく押すことができればゲージが増加、できなければゲージが減少します。曲の終了時にゲージが一定以上ならばクリアとなります。

曲をクリアしたか否かで、その後の展開に影響します。クリアした先の分岐に存在するエンディングも多いのですが、EASYモードや、オートプレイモードも付いているので、音ゲーパートをクリアできる実力が無いからエンディングを見れないという事態には陥らないようになっています。

 

良かった点

  • 他に類を見ないほどの没入度の高さ
     
    本作が(私含め)プレイした人に忘れられない程の強い印象を刻み付けていく理由はなんだろう…?と考えた結果、作品の没入度が圧倒的に高いからという結論に行きつきました。
     
    本作の雰囲気は、雨がずっと降り続く街が舞台という事もあり、かなり静かで落ち着いた印象になっています。静かなBGMや、背景やキャラ絵の淡いタッチ、時折聞こえてくる雨音などの演出の効果もあり、プレイ中はかなり冷静な精神状態にさせられます。登場するキャラクターも全員落ち着いていて、突拍子の無い設定やセリフもなく、淡々と物語が紡がれていきます。
    総じて作品全体の温度感が非常に低く冷たい印象を受けるのですが、この温度感が現実世界と近く、作中世界と現実世界の間の壁を全く感じさせないんですよね。私はビジュアルノベルを遊ぶと、序盤は作中世界の空気感(テンション?)を受け入れられるまでに時間がかかることが多いのですが、本作は最初から抵抗感がほとんど無かったです。
     
    また、主人公の置かれている状況や、他キャラクターとの距離感、作中の展開に凄まじいリアリティがあり、これにはプレイヤーを作中世界に引き込んでどちらが現実か分からなくなるような感覚にしてしまう程の力を持っていると思っています。言い換えると、全くツッコミどころがなく、プレイ中に(展開や設定に)がっかりした気持ちになることが全くありませんでした。いわゆる「お約束」的な要素も存在せず、他の作品でもやっているから非現実的なことでもやっていいよね、といった妥協をほとんど感じさせません。( 実際にはファンタジー要素もあるのですが、確りと重要な意味を持って配置されているので、妥協的に辻褄を合わせるために使用されることはありません )
    結論として、すんなりと納得がいく要素を組み合わせて作品全体が構成されているため、作中世界に没入していくプレイヤーを手放すことが無いようになっています。
     
    本作の随所に感じられるリアリティに関しては、かなり意図して組み込まれたものだと私は予想しています。そのいい証拠として、本作では食事をかなり大事に描いています。一般的に小説やノベルゲームでは、食事シーンは(状況的に食べているのが普通だとしても)わざわざ描かないことの方が多いでしょう。しかし、本作では昼になれば学食に行き、夜になれば夕食を作り、誰かといればどこかに一緒に食事に行く。そんな当たり前の事をしっかりと描ききっています。作品全体として、主人公の生活のサイクルを前提としたうえで物語が綴ることを重視しているなぁという印象が強いです。
     
    キャラクターや設定・展開だけでなく、構成や温度感などに至るまで高い現実感で仕上がっていることにより、一度掴んだプレイヤーの心を離さない没入度の高い作品に仕上がっているのだと私は考えています。
     
     
  • じわじわと精神に沁み込む、鬱な作風
     
    鬱ゲーとして有名な本作ですが、正直物語上で起こる出来事に関してはそこまで強烈なものはないです。確かに、嫌な出来事は物語上で起こるのですが、本作を知らない人がその内容だけを聞いた場合、 それだけ? という感想になってもおかしくないです。
    本作の鬱に関しては、プレイヤーを強烈な展開で直接鬱にするというよりは、作中キャラクターを媒介として鬱が伝染するといった方が正しいでしょう。
    作品の温度感や随所に感じられるリアリティによって、作中世界にプレイヤーの心がチューニングされた頃に、起こる鬱なイベントの数々がキャラクターの苦悩を経由し、まるで自分の事のように流れ込んできます。
    本作をおすすめする時、「降り続く雨がいつの間にか心に沁み込んでいて、脆くなったところをカツンとなぐれられるような作品」と言ったことがあるのですが、正にそんな感じです。
     
    後にも先にも、本作程に心を動かされた作品は無いかもしれません。
     
     
  • 素晴らしい楽曲の数々
     
    本作の売りの1つであるところの楽曲は、ボーカル曲・BGM共に素晴らしい完成度になっています。
    本作の楽曲は、故・岡崎律子さんが亡くなる直前に書き下ろしたものです。各曲は、作中のヒロインたちが書いた曲という設定になっており、歌詞はもちろん、曲調や(プレイヤーが演奏する)譜面にまで各キャラの個性が出ているように感じられます。特に、一部の曲の歌詞はかなり意味深で、最後までプレイした後に聴くと印象が変わること間違いなしです。各ボーカル曲は、対応するヒロインの声優さんが歌っています。そのため、圧倒的な歌唱力で魅せるような曲はありませんが、本作の冷たく落ち着いた空気感には、各キャラの声優さんの透き通ったような歌唱がぴったり合っています。
     
    ノベルゲームパートのBGMは、各キャラクターの持ち曲をアレンジした物になっています。ヒロインが出てきてる間、そのキャラの持ち曲のアレンジが流れるといった演出になっています。
    一般論として、音楽を聴くときに初めて聞いた時に良いと思うことは殆どなく、何回か聴いているうちに段々と良さが分かってくると思います(少なくとも私はそうです)。
    本作の演奏パートは、ヒロインとある程度の関わりを持った後、初めて起こるようになっています(特に、一部のヒロインに関してはかなり遅いです)。そのため、BGMに聞き慣れてきた頃に初演奏となるので、演奏パートに行く前の曲の予習の役割を果たしており、初演奏時の曲の印象を爆発的に向上させています。「初演奏」というシナリオ上は何でもない通過点を、「聞き慣れた曲の、楽器の音が豪華になり、ボーカルも付いたバージョンを自分の手で演奏できる」という刺激的なイベントに昇華しているのは素晴らしいと思います。
     
     
  • 没入感を高める演奏パートのゲーム性
     
    演奏パートは、Normalでもキーボードを8鍵使います。これは一般的な音ゲーと比較しても多めです。また、判定の幅もやたら厳しくなっています。
    その代わり、ノーツの密度が低く、繰り返しも多くなっています。
     
    一般的な音ゲーでは、ノーツを見た瞬間に反射的に脳が処理し、勝手に手が動くようになるまで、簡単な曲から順に埋めていくのが上達の近道です。
    一方で、本作は各曲ごとに手の動きを覚えてしまうのが定石となります。譜面を暗記し、対応する手の動きを模索する――プレイ中、音楽の授業で初めて触る楽器を練習している時の感覚そのものだ!!と気が付いて、衝撃を受けました。
     
    楽器の練習をするという物語上の出来事を、そっくりの感覚の音ゲーパートを介してプレイヤーに体験させ、主人公との一体感を高めさせる。アイデア自体も面白いと思いますが、そのアイデアを非常に高いレベルで形にしているのは本当に凄いと思います。
     
     
  • シナリオの構成
      
    物語の伏線や注意の引き方が非常に上手く、純粋に先が気になりどんどん読み進めてしまうハイレベルな構成になっています。序盤こそ少し引き込みが弱いですが、各キャラの分岐に突入してからは一気に最後まで読んでしまう魅力を持っていると思います。私個人としては珍しく、一回も長い放置期間を挟まずに最初から最後まで一気に最後まで遊んでしまった作品です。
     
    ネタバレになるので具体的には書きませんが、ゲーム全体の構成に関しても秀逸で、単にバラバラの3つの分岐を読んで終わりの作品ではありません。ちなみに、リセ→ファル→トルタの順で読んだのですが、この順番が一番いいと思っています。( とはいえ、どんな順番でも、問題なく楽しめるように作られているとは思います )
     

気になった点

  • UI の不便さ
     
    UIは HDリマスター版でも発売当時のものと変化がなく、はっきり言って古く不便です。まぁ厳密なフラグ管理などはいらないので、多少不便でも最後まで遊ぶのに支障はないのですが……
    ちなみに、UIのサウンドや見た目から漂うレトロ感は結構好きだったりします。(作品の雰囲気にも合っているとは思います)
     
  • 過去作の音楽ファイルが動かない(HD版)
     
    伝統的に同シリーズ作品には、他シリーズ作品の曲で遊べる機能が実装されてきました。例えば、同社の「エンジェリック・セレナーデ」の曲のファイルを「シンフォニック=レイン」の楽曲フォルダにコピーすると、タイトル画面のフリー演奏機能から、遊べるようになります。
    しかし、この機能はHD版で削除されてしまったようです。殆どの人にはあまり関係ないですが、同社の他作品も遊びたいと思っている人は、旧バージョンも入っている新普及版を買った方がいいかもしれません。
     
  • エンディングについて
     

    ネタバレという程ではないですが、一応隠し

    本作には、大団円のハッピーエンドと呼べるものはありません。そのため、最後まで遊び切った後にも、心の中に残った辛い気持ちは解消されない可能性があります。今となっては、本作の100点とは言えない読後感も、本作のリアリティの一環なのかもしれないと思えるようになりました(現実に100%のハッピーエンドなんて、中々ありませんからね……)
    ただ、プレイ後は食らった鬱ダメージがあまりに大きく、1週間は完全に無気力で過ごしていました。

 

総評

 世の中に多数存在するノベルゲームの中でもマイナーな作品であり、必ずしもプレイした全員が気に入る作品ではないのかもしれません。しかし、私にとっては今まで遊んだ作品の中で、一番好きな作品であり、間違いなく一番心動かされた作品です。キャラクターの心と自身の心の波長がピッタリ合い、苦悩がまるで自分の心の中に流入してくるような感覚に陥ったのは今までこの作品しかありません。

 綺麗すぎる言葉で作品を持ち上げたり、権威付けたりするのは好きではありません。ただ、この作品は私の「人生を変えた作品」なのかもしれないなと考えることがあります。人生の何がどう変わったのかはよく分かりませんが、きっと5年後,10年後にもオススメのノベルゲームを聞かれた時に、本作の魅力を力説している自分がいることが容易に想像できるので、言い過ぎではないと思います。

 この作品が制作されて世に出て、この作品に出合えたことを本当に幸福に思っています。何物にも代えがたい素晴らしい作品とゲーム体験を本当にありがとうございました。

 

ゲーム音楽ピックアップ

全曲大好きですが敢えて挙げるなら…

  1.  秘密
  2.  I'm always close to you
  3.  メロディー
  4.  リセエンヌ

が特に好きかもしれません。
アレンジされたBGMでは、秘密とリセエンヌのアレンジが好きです。