【ゲームレビュー55】違う冬のぼくら

レビュー一覧

 

ジャンル 2人プレイ専用 2DパズルプラットフォーマーADV
メーカー/ブランド 開発:ところにょり / 販売: 講談社
発売年 2023
ハード Win(Steam)
お気に入り度(0~10) 8
プレイ状況 2周目クリア / Steam版(EA ver 0.3.0)

 

 
※ 本ページはアーリーアクセス ver0.3.0を元に書かれており、内容が大きく変化している可能性があります。
 
フレンドパスで参加しました。本当にタイトル以外には何も知らなかったので、驚きが色々あって面白かったです。

ストアページで示されている点以上のネタバレは避けますが、ストアページすら知らない状態の方が楽しめる作品だと思ったので、購入予定の方はこのページも読まない方がいいです。
 

違う冬のぼくら とは?

store.steampowered.com

creatorslab.kodansha.co.jp   
「ひとりぼっち惑星」で有名な日本のインディーゲーム制作者のところにょり氏によって開発された2人プレイ専用の2Dパズルプラットフォーマー+アドベンチャーゲームです。講談社クリエイターズラボ作品で、同社から販売されています。
現在 (2023/06/01) はSteamでアーリーアクセスを行っています。正式リリース時に、Switch, iOS, Android版が販売されること、クロスプレイを実装することが発表されています。
フレンドパス対応で、1人が製品版を購入していれば、もう一人は無料でプレイすることができます。

→正式版リリース時に、フレンドパスは廃止。代わりに価格が半額になりました。

 

概要・ゲームシステム

2人プレイ専用のパズルプラットフォーマー+ADVです。コンセプトとしては、It Takes Two が近いですが、本作独自の面白いアイデアにより、また一味違った作品に仕上がっています。

基本的なジャンルとしては、INSIDE のような2Dパズルプラットフォーマーです。横スクロールアクションのステージ自体がパズルになっていて、配置されたオブジェクトやギミックを最大限活用して、先に進む方法をあれこれ考えて試行錯誤するのを楽しむジャンルですね。そして、本作は2人プレイ専用であり、2人が適切に協力することによって初めて先に進むことができるようになっています。

ストーリー要素もあり、開幕は社会人になった主人公のうち一人が、少年時代に親友と遭遇した不思議な事件を回想するシーンから始まります。その後は、その不思議な事件の起きた日の出来事を少年2人を操作しつつ追っていくことになります。パズルシーンをいくつか超えるたびに、アドベンチャーパートが挿入され、イベントが発生したり、何らかの選択を強いられることもあります。
 

ここまでの説明だと、よくあるパズルプラットフォーマーがCOOPで遊べて、ストーリー要素もついている。それだけのタイトルであると誤解してしまうかもしれません。実際のプレイ映像をみても、そういった印象を受けるでしょう。私は、今作に対して本当に何も知らない状態でプレイしたので、このゲームは面白いのか……? と序盤では疑念を抱いていました。
 

普通のパズルプラットフォーマーだな…という第一印象だった

 
さて、ゲームを始めて少し進めると最初の事件が起こります。森の中を進んでいた少年たちは鹿の死体を発見します。その時、2人は同時に気分が悪くなり、気絶してしまいます。しばらくして目を覚ますと、周囲が全て機械で出来た不思議な世界になっていました。周囲だけではなく、少年たち2人もロボットになってしまっています。少年たちは驚きましたが、周囲の景観が元々居た場所に何となく似ていることに気が付きます。もしかしたら異世界に来たわけではなく、自分たちの頭がおかしくなっているだけなのかも、それなら良かった~  とそこまで動揺することもなく、少年は再び森の中を歩き始めます。すると、少年が立ち止まり、もう一人の少年に対してこう言います。

 
「いちおう言っとくけど、ぼくのこと食べないでね……」
 

私は、この発言に対して何を言っているんだ?とは思いつつ、スルーして続けていましたが、今度は一緒にプレイしている相方が違和感のある事を言い始めます。明らかにただの金属製の箱をサイコロと呼ぶのです。
 
しばらくすると、だんだんと違和感の理由を察してきました。相手側の画面は、機械の世界ではなく、絵本のようなファンシーな世界に見えていたのです。これに気が付いた時、これは凄いアイデアだ!!!と感動しました。

同じシーンでも見え方が違う

その後も、2人の見えている世界が違うことに由来する面白い現象がたくさん起こります。片方にとっては何気ない出来事の筈が、もう片方にとっては衝撃的な出来事だったりなど、視点が違うからこそできる演出の数々が仕込まれています。「何って…○○しただけだが?」と現実で言えるシーンは本作をプレイでもしないと中々巡ってこないのではないでしょうか。

中盤以降は、片方のプレイヤーのみが起動させることができるギミックが登場し、パズル面でも非対称性のあるゲームになります。クリアのためには適切にコミュニケーションを取る必要がありますが、見えている世界が違うため意思伝達が難しく、それ自体がゲームの面白さに昇華されています。
 

アドベンチャーパートに関しても、2人が分かれて別々のシーンを見ることになります。それぞれの視点で判明する情報が異なり、その後の選択肢を選ぶシーンで意見が割れるようになっています。
 

意見が割れても、話し合ってどちらかを選ばないといけない

 


最後までプレイすると4~6時間程。クリア後に、キャラクターを入れ替えて遊べる2周目が解禁され、2周目のラストがTrueエンドになっています。
 
本作の仕様上、ディスプレイとゲームハードは2つずつ必要です。同じ画面を一緒に見てプレイすることはできないので注意しましょう。
 

良かった点

  • 視点の差を生かす、斬新なアイデアにより演出される協力感
     
    複数人で協力するゲームにおいて、それぞれに違った役割を与えるゲームデザインは近年では多くの作品で見られます。それぞれが役割を意識し、全員が適切な行動をすることによって初めてクリアできるゲーム性。これは、各プレイヤーに役割と居場所という価値を提供します。また、give & take の関係をプレイヤー間で構築し、群れで生きる動物である人間が本能的に喜びであると感じる「協力感」を演出します。
    しかし、世の中の多くのCoopゲームにおいて、プレイヤーは上達に従い粛々と自分の役割だけをこなすようになります。意思伝達のための会話も必要なくなり、次第に自分の役割でない個所には意識が行かなくなります。そして、協力している感覚も減衰していってしまいます。
     
    本作では協力ゲームにおける役割を、スキルの差ではなく、強烈な「情報の差」として与えることによってこの問題を解決しています。2視点の情報が必要な本作のパズルは、プレイヤーがどんなに上手くとも会話無しには絶対に解決できません。
     
    人間は他者の存在によって自己を認識します。会話によって強烈に自己と他者の差・役割を意識させることは、協力ゲームにおいて欠かせないものです。本作のアイデアは、協力ゲーム開発における示唆に富んでいると思います。
     
    何食べたらこんな凄いアイデア思いつくんだろう……
     
  • サスペンス風味な世界観とストーリー
     
    本作のストーリーはサスペンス風味が強い物になっています。サスペンスは、情報を意図的に隠すことで、不安・知的好奇心を煽るジャンルですが、これは本作の視点の差のギミックと相性が抜群です。
    視点の差によって、相方プレイヤーがサスペンスにおける「謎」の枠に追い込まれるからですね。人狼ゲームと同じようなもの…というのは言い過ぎかもしれませんが、相手プレイヤーが何を見ていたのかを知りたいという欲求が湧き、会話が弾むのは間違いないです。キャラを交換して2周目をプレイする動機にもなるのが良いですね。
     
  • 美麗で書き込まれたドット絵
     
    本作のドット絵は美麗で書き込みも凄いです。絵本側の視点では、この美麗なドット絵を利用して、思わず息を呑む衝撃的な表現が多数描かれます。

  • 「誰と一緒に遊ぶのか」を決めるところから、このゲームは始まっている
     
    これは、講談社クリエイターズラボの公式ページに書かれている一文です。
    ここまで読んでしまった貴方は、もう既に本作についてある程度知ってしまっているでしょう。ですが、相方に関しては私のように「本当に何も知らない」状態でプレイできる可能性が残されているのです!!!
    是非、何も知らない人を誘い、何も知らないままプレイさせてあげてください。相方は視点が違うという衝撃の気づきを得る体験をすることができ、一方であなたは何も知らない相方の反応を楽しむことができます。
    「フレンドパス」の導入により、プレイを始めた時点で情報が非対象になる可能性が高くなるのは本当に凄いですね。作者は恐らくそこまで考えていたのではないでしょうか。
    フレンドパスは残念ながら廃止されてしまいましたが、半額化によってギフトとして投げつけることで同じようなことができます!! 是非実践してみてください。
     

気になった点

  • 物語の真相が推測しやすい
     
    本作のストーリーには2つの「真相」と呼べる情報があります。
    そのうち一方は、物語の中盤で片側のプレイヤーには知らされます。
    もう一方は、2周目の最後で判明する情報ですが、相当察しが悪くない限り1周目の最後でも気が付くでしょう。
    2周目にTrueエンドがあると知った時、この2つの真相から更に踏み込んだエンディングがやってくると期待していたのですが、実際にはありませんでした。
    そのため、これで終わり?? と肩透かしに感じてしまったのは否めません。
     

総評

2人の視点の差を生かす、斬新なアイデアが光る作品です。
まだアーリーアクセスという事もあり、今後より輝く作品になることが期待できます。
ぜひ相方には何も知らない状態でプレイしてもらおう!! おすすめ!!!
 

ゲーム音楽ピックアップ

  1. エンディング
    アコースティックで落ち着いた印象のエンディング曲です。良き。