【ゲームレビュー7】Omegaの視界

レビュー一覧

ジャンル ビジュアルノベル
メーカー/ブランド ねこバナナ
発売年 2006~2010
ハード PC(PS3,PSV,PS4,android,Switch)
お気に入り度(0~10) 10
プレイ状況 4作品読了/BoothDL版

 

 

同人のビジュアルノベルです。重要なネタバレはせずに書いていこうと思います。

 

Omegaの視界 とは?

nekobanana.com

www.youtube.com
同人サークル「ねこバナナ」が2006~2010まで発表したビジュアルノベルです。

今までに以下の4作品(1作目は元々分割だったっぽいので5作品ともいえます)が発表されており、全て合わせて一つのストーリーが完結するようになってます。

  • Omegaの視界 シキのはじまり/未解封のハコニハ
  • Omegaの視界 アキかけたシキのアイ
  • Omegaの視界 アキかけたシキのアイ:残
  • Omegaの視界 ~ミヨ オワレル シマイ トワ(●nd)~

現在(2021/10/17)Boothで買えるバージョンは、4作品全部入りですのであまり気にしなくてよいと思います。一作目の前半(シキのはじまり)の部分が体験版として公開されていますので、まずはそちらをプレイしてみてもいいかもしれません。

 

続編として、「或るファの音眼」があります。現在(2021/10/17)、さらなる続編の「十四番目のΞ」を開発中のようです。まだ未プレイですが、本作が良かったのでプレイしてみたいですね。

 

<あらすじ>

Omegaの瞳の祝福のあらんことを。

 

自称美少女古書肆 宮岡 門王水と共に、
北の田舎『玄ノ森』へ向かった主人公 飯窪真言
その地で、宮岡より謎の資料群『月狂跳に関すると思わしき
御神体や現地の祭についての調査を命じられる。
調査途中に、真言の幼馴染と名乗る 貴奴、片目の少女 冬夏
と出会い、共に調査を行うことになる。
飯窪本家の思惑に流されつつ、
冬夏の実家である三春家の蔵で真言達3人が見たものは。

断片化された情報。

次第にゆがんでいく視界。

『彼は雫だ。 濁ったみどろをさざめかせ、停止した時間を動かす針だ』

嗚呼、

猫が──


――Boothストアページより引用

概要

本作の特徴を一言で言い表すとすれば「難解」でしょう。本作のシナリオは、基本的に主人公目線と、他の登場人物目線が交互に語られます。

前者は特に難解ということもなくシナリオが進んでいきますが、問題は後者です。まず、他の登場人物目線の描写においては「語り手」が誰なのかが明かされません。そして、後者の語り手として出てくる登場人物は非常に多く、作中の用語も膨大な量出て来るので、終盤になるまではほとんど意味が分からないと思います。重要な情報には伏字がされていることもあり、難解さに拍車をかけています。

本作は難解ではありますが、だんだんと読み手が理解できるような工夫がされています。その最たるものとして、主人公目線でないときは語り手に応じて背景の画像が変化します。語りの特徴や内容から、誰が語っているのかを推測することができれば、それ以降は背景を見れば語りが誰なのかわかるという具合です。

 
シナリオは、いわゆる伝奇系です。とはいえ、超常現象に対する探究がメインというよりは、各人物の思惑・動向が話の中心に添えられています。ホラー要素はあまり強くありません。
 
分岐は基本的に存在せず、完全な一本道システムになっています。

 

システム面に関して、ノベルゲームの有名なエンジン吉里吉里を使って作られているということもあり、重要な物はあらかた揃っています。章ごとに読み返せる機能やCG/GBM鑑賞モードもついています。

 

良い点

  • ぐいぐいと引き込んで来る秀逸なストーリー
     
    本作をプレイした後振り返ると、プレイヤーの心理をよく考えて作られているなぁと気が付きました。
     
    まず一つ、本作のシナリオは常に緊張感を絶やさない構成になっています。作中で主人公は、敵対する陣営の人々に正体を隠して接触し情報を集める役割を負うことになるのですが、これがスパイ物のような緊張感ある展開を生み出しています。加えて、主人公以外の目線の物語では目的を達するため裏で暗躍する人々が描かれ、事態がだんだんと悪化しているのをプレイヤーだけが知っているという状態になります。
     
    もう一つ、本作のシナリオはプレイヤーの感情を巧妙に利用しています。味方サイドの人々と同じくらいに敵側サイドの人々との交流も描くことで、だんだんと敵側の人々にも愛着を湧かせたり、逆にそれをバッサリ裏切ったりなど、プレイヤーの感情をあっちこっちへ振り回す秀逸な構成になっています。
     
    結局、シナリオ面は序盤から終盤までダレることなく、ずっと面白かったです。3作目~ラストまでは徹夜で駆け抜けてしまうほどの面白さでした。
    4作目の前半は個人的に特によかったです。プレイヤーに充分に感情移入させてから絶望に叩き落す展開は、何もできずただその時を過ごすためのありふれた行動しかできない主人公たちに対して奇妙な連帯感を生みだしてくれます。
    ラストは、続編への伏線も残していますが基本的にはすっきり終わり、読了感も良かったです。
     
     
  • 考察の余地のかなりある複雑な設定
     
    設定は、かなり複雑なものになっています。最後までプレイした私も正直全貌を把握できたとは言えません。作中に設定に関する文章が膨大な量存在するので、考察好きの人にはたまらないでしょう。
    普通にプレイする際も、複雑極まる設定に関する文章群を少しずつ読み解いていくことが楽しみの一つになっています。頻出する伏字にもしっかり中身がある(ただ意味もなく●を書いているわけではない)ので、文章の意味や隠された言葉をしっかり考えることで点と点がつながるような感覚を何度も味わうことができます。
     
  • キャラクター描写の緻密さ
     
    まず、登場するキャラクターが非常に多く、場合によっては一度しか出てこないキャラクターや、名前だけしか出てこないなんてこともあります。しかし、そのようなキャラクターまで人物の個性の描写や設定はしっかりしており、立ち絵もしっかり用意されていたりします、あからさまなモブのようなキャラは全く登場しません。主人公の周辺だけの閉鎖的な人間関係を描くのではなく、実際は見えないところで関係は大規模に広がり、そして複雑に交錯しているんだ、という点をしっかりと描ききることで作中世界をよりリアリティ溢れ、奥深いものにしています。
    各々が自分の持つ使命や思惑に従ってバラバラに行動し、それを貫くための大小の衝突や裏切りも起こる……大きな"シナリオ"という枠に沿ってキャラクターが動くのではなく、個々人の勝手な行動がシナリオを作っていく構成になっています。そのため、彼らのぎくしゃくした関係や人間の持つ嫌な部分、みたいなものをヒロイン格のキャラクターに至るまで躊躇せずに(むしろ意図して?)描写しています。これがキャラクターに凄まじいリアリティを与えています。
    恋愛描写もある作品ですが、切ない展開が多いです。キャラクター描写が上手いだけに胸が詰まるような苦しさを覚えることもありました。
     
  • イメージに合ったグラフィック面
     
    背景は実写に手を加えたものを用いています。これが中々生々しさを演出していてよかったです。主な舞台が少し寂しい田舎町なので、実写背景の質素さがまさにベストマッチといった感じでとても良かったです。
    キャラクターの絵柄も、落ち着いていながらも可愛らしい感じで結構好きです。
     
  • ダウナー系の高品質な音楽
     

    オープニングやエンディングは、onoken氏作曲の高品質なダウナー系の曲が揃っています。2章のopの"砂の城"は特にお気に入りです。

 

悪い点

  • 同人ゆえの粗削りさ
     
    同人作品なので、粗削りだなぁと感じるポイントがいくつかあります。ギャグシーンの挿絵は、キャラクターがデフォルメされているというよりは勢いで書かれたような印象を覚えてしまいます。また、これは使っているエンジンの影響ですが、現代から見るとUIデザインやその挙動がやや貧層に見えてしまいます。(機能面では大きな問題はありません)
    どちらも特に気にならなければ全く問題ない程度の物ではあります。
     
     
  • 一部の会話シーン
     
    序盤の一部の会話シーンは、台詞の掛け合いがうまくかみ合っておらず、ぎくしゃくした印象になっています。初対面のキャラクター同士の会話なので、そのかみ合わなさが逆にリアルな人間関係を演出していると見ることもできそうです。(もしかしたら本当に意図的なものかもしれません)
    作品が進むと会話の掛け合いのテキストはうまくなっているように感じます。
     

総評

個人的には非常に楽しい作品でした。相当難解なこともあり、明らかに万人受けする作品ではありませんが、刺さる人にはぐっさりと刺さる作品と言えそうです。実際、ネット上の評判もかなり真っ二つに割れているような気がします。
私は、オープニングの動画を見て面白そう!と衝動買いしたのですが、めちゃくちゃぐっさりと刺さってしまい、結果大当たりでした。まずはこのページの上の方に貼ったオープニングを見て、何か感じるところがあったら是非体験版をプレイしてみてください。

ゲーム音楽ピックアップ

  1. ythm

    www.youtube.com1作目のオープニングです。この曲のフレーズはエンディングや続編のopでも使われているようです。この曲が無かったらプレイしていませんでした。
     

  2. 白と黒の祭儀
    1作目のエンディングです。物語の展開とリンクしたイントロが印象的です。結構好きなのですが、officialでは公開されていないようです
    → 全曲公開されたようです!!(2024/02/29追記)

    www.youtube.com


     
  3. 砂の城

    www.youtube.com2作目のopです。この曲から物語が動き出す感があります。一番好き。
     

  4. 夜光燈

    www.youtube.com3作目のエンディングです。落ち着いた感じですね。
     

  5. AgitO

    www.youtube.com4作目エンディングです。ダウナー系でありながら最後らしく少し明るく、力強い感じになっています。