【ゲームレビュー11】Summer Pockets REFLECTION BLUE

レビュー一覧

ジャンル ビジュアルノベル
メーカー/ブランド visual arts/Key
発売年 2020
ハード PC(Switch/iOS/Android)
お気に入り度(0~10) 9
プレイ状況 全ルート回収(ミニゲーム除く)/DLSite版

 

 

元々Key作品は1本くらいプレイしてみたいな~と考えていたところ、たまたま聴いた"Lasting Moment"が素晴らしく、この曲が流れるゲームをプレイしてみたい!と思い奮発して購入。

結果、期待を裏切らない素晴らしい作品でした。ノベルゲームのため、ネタバレは控えて書いていこうと思います。

 

Summer Pockets REFLECTION BLUE とは?

key.visualarts.gr.jp

www.youtube.com



2018年にKeyブランドから発売された夏休みをテーマにしたビジュアルノベルの「SummerPockets」に、追加要素を多数加え、2020年に発売された完全版です。

「SummerPockets」は、ヒロイン4ルート + True2ルート という構成ですが、「REFLECTION BLUE (以下RB)」では、サブキャラだったヒロインにシナリオが追加されたり、新キャラ(RBのメインビジュアルを飾っています)が追加されたりなど、新規に4ルートが追加されています。
True関連は無印版とRBで大筋に違いはありませんが、RBでは最終盤に少し手が入っているようです。
 
無印版・RB共に PC,Switch,スマートフォンの全てのハードで遊ぶことができます。RBの追加要素が膨大な量なので、今から遊ぶ場合はRB一択と言えそうです。
 

-STORY-

主人公である鷹原羽依里たかはら はいりは、亡くなった祖母の遺品整理のために夏休みを利用して1人で鳥白島にやってきた。

1日数本しかない連絡船を下りたとき、1人の少女と出会う。
彼女は潮風に髪を遊ばせながら、遠くを…海とも空とも言えない境界線をただ眺めていた。
気がつけば少女はどこかへ行ってしまい、羽依里は狐に摘まれた気分になりながら、祖母宅へ向かう。

そこではすでに親戚の叔母がいて、遺品整理を行っていた。
羽依里は、祖母の思い出の品の片付けを手伝いながら、初めて触れる「島の生活」に戸惑いつつも、順応していく。

都会暮らしでは知ることの無かった自然とのふれ合い。
忘れていた懐かしい何かを、思い出させてくれるような、そんな生活だった。

 

海を見つめる少女と出会った。
不思議な蝶を探す少女と出会った。
思い出と海賊船を探す少女と出会った。
静かな灯台で暮らす少女と出会った。

 

島で新しい仲間が出来た―― 

 

この夏休みが終わらなければいいのにと、そう思った。 

 

 

―― 公式ホームページ「STORY」より引用

 

概要

夏休み」をテーマにした恋愛アドベンチャーゲームです。アドベンチャーゲームの要素はほとんどないので、実質的にはビジュアルノベルとなっています。

本作の特徴は、ノスタルジックで爽やかな夏休みの描写、そして涙腺を刺激する感動的なシナリオであると言えるでしょう。Keyは昔から「泣きゲー」と言われる感動的なシナリオが特徴の作品をいくつも手掛けてきており、本作もその流れの1つであると言えると思います。


本作のシナリオは、夏休みの前半パートと後半パートに分かれています。
前半パートはいわゆる共通ルートです。各日ごとに午前・午後の行き先を選ぶことができ、どこを選んだかによって違うシナリオを読むことができます。前半パートで特定のヒロインのいる場所に一定回数行くことにより、後半パートのルートが分岐します。

どこに誰がいるかはアイコンで示されるため、各ルートを見つけることは非常に簡単です。

後半パートは行き先選択もなくなり、本格的に物語が始動していきます。
ルートをクリアすると、そのルートのヒロインがタイトル画面から消えます。全てのルートを読み切ると、誰もいなくなったタイトル画面が変化し、Trueルートの物語を読むことができるようになります。

 

ゲーム中には、卓球ゲームとカードゲーム(島モンファイト)というミニゲームが登場します。ミニゲームは夏休みの前半の行き先選択で選ぶことで遊ぶことができ、作中のキャラクターと対戦することができます。対戦を繰り返し、島内でのランク(順位)を上げていくことで専用のエンディングにたどり着くことができるようです。かなりバカゲー的な要素が強く、シリアスなシナリオの雰囲気を吹き飛ばすようなミニゲームになっています。
 

良い点

  • 最高の夏感
     
    清涼感溢れ、少しノスタルジックだけれども最高に楽しい、そんな夏休みの描写があまりに素晴らしいです。永遠に続くように思えた子供時代の夏休み。では高校生の送ることができる最高の夏休みとはいったい何なのか。考え尽くされた「夏感」の描写はこの世界にずっと浸っていたいと思わせる素晴らしい雰囲気を演出しています。
     
  • 素晴らしいキャラクター描写
     
    ヒロインや主人公の男友達はもちろん、絵のないサブキャラに至るまで全てのキャラクターがみんなしっかりと「やさしさ」を持っています。
    もちろん、各個人には事情や悩みもあり、「ただ他人に優しい人」ばかりが登場するわけではありません。それでも、自分のできる範囲内で他者のことを思いやり、時には主人公にさり気なく手を差し伸べてくれる人々。そしてそんな登場人物たちに影響されて成長し、そして時には誰かのために決意して行動する主人公の姿には何度も心打たれました。
    理想的な夏休み。そしてそれを支えてくれる理想の仲間たち。彼らの存在も本作の大きな魅力と言えるでしょう。
     
  • 丁寧な人物描写で魅せる感動的なストーリー
     
    各ヒロインのルートは、ヒロインと親しくなった主人公が、ヒロインの持っている問題や悩みを知り、それを一緒に乗り越えるというかなり王道なものが多いです。そのため、シナリオの独自性は弱く、どこかで見たことのある展開が多めではあります。
    しかし、ストーリーを繊細に書き上げ、ぐっと胸を締め付ける感動的なシナリオに書き上げる能力に関しては流石Keyといった感じの凄まじい完成度になっています。物語を読んで泣くことはほとんどない私ですが、本作では何度も涙腺をやられました。特に紬・鴎・Trueの3ルートはかなりぐっさり刺さってしまい、クリア後の喪失感が少し苦しかったです。
    ここまで感動的なシナリオを書けるのは、シナリオの仕掛けや伏線よりも、人物の描写を重視してシナリオが書かれているからであると思います。"属性"的な要素を持った濃いキャラクターが多い本作ですが、記号的なキャラクターにならないように、イメージを壊さない範囲で人間らしく丁寧に描かれているおかげで、ストーリーに説得力と生々しさが与えられた結果、読み手の心に突き刺さる感動的な物語に仕上がっているのだと思います。
     
  • 素晴らしい音楽の数々
     
    オープニング・挿入歌・エンディングのボーカル曲はどれも素晴らしい完成度になっています。RBから各ルートの挿入歌として使われるようになった「夏の砂時計」やTrueルートで流れる「夜奏花」は流れる際のシナリオも相まって涙腺を刺激してきます。ボーカルなしのBGMも素晴らしく、タイトル画面の静かな水面のような「Summer Pockets」や、楽しく少し寂しい夏休みのイメージが湧く「Sea you & me」などの楽曲はクリア後に聴くと、心地よい夏の余韻を味わうことができます。
    RBでは、無印版では使用されていなかった各キャラクターのキャラクターソングも挿入歌として使われるようになり、音響面は非常に豪華になっています。
     

悪い点

  • ミニゲーム関連
     
    ミニゲーム2種はちゃんと作られており、専用のエンディングまで用意されていますが、やりこんで楽しい完成度かと言われると疑問が残ります。
    また、ミニゲームは本編の展開とほとんど関係がなく、ミニゲームをやり込もうとすると本編の世界から切り離されてしまったような疎外感を感じてしまいます。卓球ゲームはシナリオの中にもう少し入れ込んでくれても良かったなと思います。
     
  • 攻略順次第でどれだけ楽しめるかが変わってきてしまう可能性がある
     
    あるルートで、別のルートのネタバレがある箇所があります。プレイする際は順番に気を付けた方がいいでしょう。個人的にお勧めだと思ったのは、
    うみ→ ( 紬,蒼,鴎,美希 ) → 静久 → 識 → しろは → True かなぁと思っています。ネタバレに配慮しすぎるとあるルートをTrue後までとっておくことになってしまい、すると締まりが良くないので……等いろいろ考えた結果上のような順番が良いのではないかと思いました。
    元々そこまで大掛かりな仕掛けがあるようなシナリオではありませんが、それでもある程度ネットに落ちている攻略順を参考にする事をお勧めします。
     
  • 良くも悪くも王道路線であること
     
    先述した通り、シナリオの大筋や仕掛け自体は王道なものが多いです。そのため、キャラをイマイチ好きになれなかったり、シナリオに入り込めなかったりすると微妙に感じてしまう人もいるかもしれません。
    私自身、とあるルートはイマイチ合わずあまり楽しめませんでした。ただ、ルートの数自体が多く、ルート間のつながりも弱い作品ですので一部合わないルートがあったとしても全体としては楽しめる作品だと思います。
     

総評

初夏、新しい環境でこれから始まる長い夏休みに胸を躍らせ、
新しい出会い、楽しい出来事、永遠に続いて欲しいと思うような日々を過ごし、
近づく夏の終わり、夏の日々に貰った目標に向かってがむしゃらに突き進む――

 

そんな夏休みを存分に味わうことのできる作品です。
気になった方はぜひプレイしてみてください。きっとあなたの理想の夏休みが見つかるはずです。

 

 

ゲーム音楽ピックアップ

  1. アルカテイル

    youtu.be無印のopです。
     

  2. アスタロア
    RB版のオープニングです。動画は最初の方に掲載しました。
     
  3. SummerPockets
    タイトル画面の曲です。優しい音色が本作とマッチしていてよいです。
     
  4. Sea, you & me
    生命の生い茂る力強い夏、そしていつかは終わってしまう儚い夏を表現したような曲です。とてもいい曲なのでぜひ聴いてみて欲しいです。
     
  5. Adventure for Black
    鴎のテーマ曲です。ヴァイオリンの音色が心地よく、一番楽しく穏やかな夏休み感を出しているBGMだと思います。ボーカル版も好き。
     
  6. 夏の砂時計
    各ルート後半で流れる挿入歌です。この曲が流れるシーンは、だいたい涙も流れてしまいます。
     
  7. Lasting Moment
    各ルートのエンディング曲です。駆け抜けるような疾走感がたまりません。一番好きな曲です。
     
  8. 夜奏花
    Trueルートの挿入歌として使われます。この曲が流れるところが本作の最大の見せ場と言ってもいいでしょう。
     
  9. 羽のゆりかご
    True前半のエンディングです。流れるシーンも相まってかなり好きな曲です、
     
  10. ポケットをふくらませて
    True後半のエンディングです。作中で何度も聞いたフレーズをラストに持ってくるのは良いですね…